甲田守の『根こそぎ掘りデー』第4回 「 クエンティン・タランティーノ、ポール・バーホーベン 、小野光洋ですよ」

頗る体調が悪い。新宿コントレックスVol.16が終わってからというもの、どうも優れない日々が続く。珍しくもまず喉がやられた。連日の暑さで夏バテも加わる。横になってもなかなか回復の兆しは見えない。見えなかったのだが、前々回掘りデーしたコアラさんに相談したところ、どうやら今現在暮らすこの家に問題があることに気づかされた。外より熱いこの部屋で休んだところで体調が良くなるはずはないのである。昼でも電気を点けなければならないこの部屋の風通しは最悪。今回掘りデーしたこの男ならここのことをこう名付けるだろう、『絶望部屋』と。
それでは参りましょうか、甲田守の『根こそぎ掘りデー』スタートです!

 

甲田守の『根こそぎ掘りデー』とは…?

休日の行動スタイルが基本的に「座っている」で有名なネコソギこと甲田守がホリデーに誰かを誘っては「座っている」からの脱却を図るという、知的かつ高尚な難解プログラミング企画………ではなく単純に誰かを誘って遊びに出かけるという、ただそれだけの企画である。隔週月曜更新を予定。

 

午前8時半出発。集合時刻がだいたいが10時か10時半(早い時は9時もあるが)なのでこれぐらいで間に合う。電車で約1時間半、長い道のりです。

道中決まって読むのは前日もしくは当日に送られてくる脚本。分量はその日の撮影分のみ。クランクイン時に脱稿していることは100パーセントありません。

今日の撮影のロケ地はどこか。おそらく千葉大学西千葉キャンパス内がワンシーン、いや数シーン含まれることは容易に想像できる。

集合場所は千葉大学西千葉キャンパスのとある部室。サークル会館というこの古ぼけた建物の一階にその部屋はある。今までに幾度訪れたことか。また今日も小野映画の撮影が始まる。

小野映画自体が始まったのは遡ること三十数年前の1980年代。小野監督高校生の時分である。
ここで「監督」にならなければ…。

1985年千葉大学入学。僕が生まれた年に監督はあの部屋に入室していたのだろう。
ぞっとしますね。

本日クランクインする映画のタイトルは『さよならミケ(仮)』。部室によく来訪していた猫、ミケの追悼映画となります。僕が在学していた頃もよくミケは部室に来ていました。動物が苦手だった僕ですがミケはそんな僕にも良く懐いてくれて非常に嬉しかったのでした。

部室に到着。その部の名称、いやサークルの名称はCinemount Film Party、千葉大を拠点にする自主映画サークルです。

「おはようございまーす」

お久しぶりです、というわけでもなく上映会やら何なりで2ヶ月に一回はお会いするという頻度。まあ結構久しぶりとも言える。

さっそく本日分の脚本が手渡される、データではなく紙で。

本日の出演者は僕と部員の横山くんの2人です。ロケ地は案の定大学構内、と西千葉公園。

「小野さーん、ワンパターンですよー!」

「いや、大学は自分のスタジオみたいなものだから」

おおぅ、スタジオときたか。この方にとってはスタジオみたいなものか。確かに小野さんよりここを知り抜いている人はいない。

横山くんが部室に到着しました。それでは第1のロケ地工学部棟の方に向かうことと致しましょう。

室内撮影ですので照明が必要です。2灯持っていきましょう。あとマイクを入れてと。そしてもちろんカメラですね。今日も潤沢なスタッフを従えて撮影ができるなんてまるで夢のよう。よいしょ、よいしょ、どっこしいょ。小野さん、こんなに機材自転車に載りますか、そんなに持って大丈夫ですか、まぁスタッフが潤沢だから仕方がないか、横山くんも大変そう、さあ現地に向かうぞー、あっ、カゴがとれそう…。

工学部棟到着。撮影場所のすぐ横では授業が進行している。のでここでの撮影は中止。まさかこんな初っ端から頓挫してしまうとは、うわぁ参った、もうこのシーンは今日は撮れないよぅ〜、などとは小野監督の頭には浮かぶはずもない。現場で何がおころうと撮る!場所が使えなかったら?場所を変えて撮る!いやけどさすがにキャストが来なかったら無理ですよね〜?脚本変えて撮る!

撮る!撮る!撮る!

呼吸をするように映画を撮る!

比喩でも何でもないんだ。この人は映画を撮らなければ死んでしまうのです。

ああ、恐ろしい人と出会ってしまった…。

ああ、面白い人と出会ってしまった…。

ここでアガリスクエンターテイメントと小野さんの関係を少し挿入。

小野さんは文章を書く。映評から劇評はもちろんのこと恋愛譚?は赤裸々に誹謗中傷は果て知らず。巧みな文を綴ります。映評、劇評は基本的には辛口です(他の人が甘口過ぎるのかもしれませんが…)。そこがとてもいいのです。で、そんな小野さんですがアガリスクエンターテイメント劇団員の淺越岳人がCinemount Film Partyにも在籍していた関係でアガリスク初期の作品を多く観劇している。もしかしたら旗揚げ公演も観ているのかもしれない。『ナイゲン』の初演ももちろん観ているわけでこんな劇評を小野さんは残しているのだ。あげてみよう。

「十二人の優しい日本人」を思わせるディスカッション・コメディー。
‘会議は踊る’のパターンの群像劇だ。
どうでもいい問題の重箱の隅をネチネチつついたり、規約にあまりに忠実すぎたりするバカバカしさ。

脚本がなかなかよくできている。笑うべきところで笑える。
‘民主主義’や‘法令遵守’に対するアイロニカルな視点が効いている。
それでいて、‘三人集まれば文殊の知恵’的に、肯定的視点でしめくくるのも的を得ている。
「会議」には、いい面も悪い面もあるのだ。

一方で無駄と思える展開もそこかしこに見受けられ、正直上演時間2時間は長い。
せっかくだから、脚本を換骨奪胎し、演技面の練度も上げて、再演に挑んではどうだろう。
なんだかもったいない。

それにしても、高校時代は文化祭に意味なく燃えたものだ。
あの頃は、何でも楽しんでやろうという気概に溢れていた。
そんなことも思い出させてくれる芝居だった。
(自主映画監督 小野光洋)

さらに小野さんについて知りたい方はこちらのモリエンテスラジオをどうぞ。
今回のブログのタイトルは淺越岳人の発言より拝借致しました。必聴です。

さらにさらに知りたい方は上映会へ是非とも足をお運びください。

【Cinemount Film Party第57回定期上映会】

8/11(山の日)14:00~。年に2回開催するシネマウント主催の単独上映会。4~8月に完成した全作品(10本前後)を上映します。会場は東京・町屋の「ムーブ町屋」。
入場無料。途中入退場自由。

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