甲田守の『根こそぎ掘りデー』第3回 熊谷有芳と行く久しぶりの野球観戦。(後編)

彼女はとても聡明な方です。そこが僕の、彼女の好きなところです。

ロッテファンである彼女はチケットの手配も慣れたものであるからして僕が入る余地はありません。待ち合わせの時間、場所はもちろんのこと、ひいてはおやつは300円までですよー、とまで決めてくれる…かもしれない…。

実際には、スタジアム内での飲食物は高いので予め持って行った方がいいよー、との情報を事前にくれている。心配りが行き届いているのだ。

普段は待ち合わせに遅刻することもない僕ですが、あまりの安心感からかいくらか時間を過ぎてしまった。スタジアムに向かう人波にのまれたせいもありますが…。

思った通り、彼女はすでに待っていた。彼女も普段から待ち合わせにはあまり遅れることがない人である。そこもまた僕の、彼女の好きなところです。

自転車に跨ってすでにロッテのユニフォームを着込んでいる勇ましい姿の彼女。帽子を横ちょに被ればまた様になるのが彼女である。

ユニフォームは自分の分だけ?そんなエゴイスティックな人物像を彼女に描いてはならない。そして当然ながらこの場面において自分だけユニフォームを着用していることは全くエゴイスティックには当たらない。ここで僕の分まで余分に用意していることの方がアンビリーバブルな事態なのだ。

しかし彼女にとってはこれがノーマル。そして合流した時点では僕にユニフォームは手渡されない。スタジアムに入ってこれここぞの瞬間にユニフォームの着用を促される。もちろん強要ではない。試合を一緒に楽しみませんか、との一見さんにも優しいアプローチなのである。

考えてみればこのユニフォームは本日の衣装だ。そして彼女はアガリスクエンターテイメントの衣装担当なのだ。

みなさん、アガリスクエンターテイメントの衣装を舐めるでないぞよ!それでは甲田守の『根こそぎ掘りデー』スタートです。


甲田守の『根こそぎ掘りデー』とは…?
休日の行動スタイルが基本的に「座っている」で有名なネコソギこと甲田守がホリデーに誰かを誘っては「座っている」からの脱却を図るという、知的かつ高尚な難解プログラミング企画………ではなく単純に誰かを誘って遊びに出かけるという、ただそれだけの企画である。隔週月曜更新を予定。


彼女はとても聡明な方です。そしてビールがとても好き。

スタジアム内に缶を持ち込むことはできないようなので、入り口にて事前に買っておいたビールを紙コップへと注ぎかえます。


泡が立ってなかなかに苦戦している様子。なんでも卒なくこなす彼女にも苦手なことはあるようです。

試合が始まるまでまだ時間に余裕がありますのでスタジアム内をぐるーっと回ることにしました。

先導する彼女は頼もしく、各所を案内してくれます。

話は逸れるのですが、僕は学問を大いに信頼しているところがあり、彼女の聡明さはそこのところで自分と相通ずるところがあるのかもしれません。

具体的にそのような学問について話題に上がることはありませんでしたが、彼女は大学では演劇を専攻していたとのことなので、いつかはそんな話にトライできたらまた彼女の世界に一歩踏み込むことができるのかもしれません。

トライと書きましたが彼女はおそらく英語も堪能なように思われる。あくまで今は思われるという段階でなかなか彼女もその本領を明かしてはくれない。能ある鷹は爪を隠す、というやつだ。

彼女の横に座る。観戦する。

僕はあまり野球に精通しているわけではない。ルールぐらいならある程度は知っているが選手やチームについての知識はからっきしである。

彼女はファンであるロッテに限らず対戦相手の楽天のことにも詳しい。何でも知っている。

僕は結構うるさかった。気になったことは色々と喋っては聞いてしまう。それは少し一方的であったかもしれない。

ロッテファンである彼女からしてみれば、またロッテ戦を観に来て欲しい、スタジアムに来て欲しいとの想いが強くなるのは当然であろう。けれど、彼女の会話はファンの立場の一方通行からは距離を取ることもできるから好ましい。

端的に言って彼女は聞くのが上手い。

僕の知的好奇心に適度に応えてくれるのでこちらとしては快適なことこの上ない。

試合に夢中になるに連れて僕は、必然的に彼女にも夢中になっていくのである。


この日は残念ながらロッテは負けた。だから彼女と一緒に盛り上がることはできなかった。けれど彼女と一緒に盛り下がることができた。

これですよ、これ!

独りで座っているだけでは絶対できないことなんだから。

だからと言って独りで『座っている』の基本スタイルを疎かにしてはならない。

常に基本に立ち返る、いや、座り返るのである。